GaN の採用、もっと多くのアプリケーションへの採用拡大の可能性

Doug Bailey - Power Integrations マーケティング及びアプリケーションエンジニア 副社長
SiC vs GaN vs SJ MOSFET vs IGBT? これらはそれぞれに強みがあり、だからこそPower IntegrationsではGaNを市場としてではなく、1つの技術として捉えています。SiCや様々なMOSFET技術と同様に、GaNは当社の豊富な技術の中の1つに過ぎず、アプリケーションごとに最適なものを採用しています。
GaNの位置づけに対する認識は、弊社が最近発表した1700Vのブレークダウン電圧を備えたGaNデバイスの衝撃的な(この言葉の表現は正しいと考えます)リリースによって大きく変わりました。それを全体的にまとめますと、1700Vは弊社のこれまでの最大入力電圧より450V高く、他メーカー(量産出荷可能な製品としては入手不可能と思われますが...)が謳う最大入力電圧より70%も高い値です。ほとんどのGaNサプライヤーは750Vを大きく上回る入力電圧の実現に苦戦しています。弊社は定格1700Vのフライバック電源IC InnoMux™-2を既にリリースしており、本製品は1000VDCレールのアプリケーションにも容易に対応できます。本製品は納期16週間で量産注文に対応可能で、サンプルはすぐに提供可能です。--

これは業界、および「GaN 対 SiC、どちらのパワー IC 技術が最高なのか?」という議論にとって何を意味するのでしょうか?
手短に言うと、GaN が数10ワットの低電力から数100ワットそしてKワットまで、全ての領域のアプリケーションに対応可能になると考えております。
詳しく見ていきましょう。GaN はすでに、30W から 240W などの低電力充電器市場でかなりの数が採用されております。これは、GaN がスーパージャンクション MOSFET よりもはるかに効率が高く、スイッチング損失が無視でき、特定の RDS ON が非常に低いためです。それにより、より高い電力密度を実現でき、デバイスをより小型または高出力にすることができ、熱管理の課題を大幅に出来ます。またMOSFET は現在 GaN HEMT よりも安価ですが、高度な共振トポロジとヒートシンクが必要なため、システムレベルでは GaN よりもコスト効率が低く(コストが高く)なります。この GaN の利点は、生産数が増えるにつれ、更に向上するでしょう。MOSFET が超低電力アプリケーション (例えば 20W 未満) に好まれる唯一の理由は、低電力レベルでは GaN のダイが非常に小さく、取り扱いが難しいことです。--

電力レベルが 500W、1kW、そして 10kW まで上がっても、GaN が優位になりつつあります。例を挙げると、冷蔵庫、e-bike 充電器、洗濯機やその他の白物家電、HVAC コンプレッサー、太陽光発電、車載充電器や鉛蓄電池の交換回路などの特定の自動車機能、サーバー PSU などのアプリケーションが対象となっています。これらは全て MOSFET から移行しています。すでに SiC に移行しているものもありますが、SiC と GaN の効率は同等であるのに、なぜここで GaN が優勢になるのでしょうか。理由は単純にコストです。SiC に必要となる高温処理プロセスの為に膨大な量のエネルギーを必要とします。GaN は必要ありません。GaN デバイスの製造コストは、本質的にシリコン部品よりも高くなく、比較的わずかな変更を加えるだけでシリコンデバイスと同じラインで製造することが出来ます。

これまでMOSFETとSiCの専売特許だった1~10kW級のアプリケーションは、今後ますますGaNで対応できるようになるでしょう。しかも、その可能性はそれだけに留まりません。現在GaNの出力は7~10kW程度が上限です。これはEVインバータ市場(単一電源ICアプリケーションの市場規模としては最大)のニーズを満たすには少々物足りませんが、EVの電力レベルである数100kWを満たす為には、(GaNの出力を)あと10倍にするだけで十分であり、ハイテク分野で10倍にするのはわずか数年で実現出来ます。実質的な制約も物理的な制限もありません。必要なのは発明やひらめきではなく「開発」なのです。
数メガワット級の風力タービンやギガワット級の高電圧直流設備といった超高出力領域では、IGBTは広く普及しており、比較的安価です。そのためSiCは、垂直型技術が実現する高電流を必要とする比較的限られた市場/領域に留まると予想されます。
最後に一言。新しい技術が登場したり、大きく前進したりすると、まず最初に既存の技術をそのまま置き換えがちです。しかし、賢明な人は言います「それはそれでいい。だが、新しい技術によって設計を根本から見直すことが可能だ。つまり、従来の技術に何が必要だったかではなく、新しい技術を最大限に活用した新しいコンセプトを生み出せるのだ」と。私たちは特定用途向け電源製品の開発の為に、マイクロエレクトロニクス、パッケージング、システム、アルゴリズムの各レベルで革新を続け、効率、コスト効率、部品点数において飛躍的な進歩を実現する、新たな市場に向けた新たなアイデアを生み出しています。
